面接
梅雨の終わり、夏本番に入る頃、俺はある神戸のタクシー会社で面接を受けていた。 暑い中、スーツの上着を着て、ネクタイ、マスクを付けて面接会場である2階の社長室に入った。 待っている間もそれほど緊張はしなかったと思う。 社長は若かった。 俺よりも若い。 業界に俺より若い社長がいるとは思わなかった(そら、いるやろ)。 「いや、(最近)忙しいんでね」 社長は白シャツにノーネクタイ、部屋に入ってきたときはマスクも付けてなかったが、マスクをして待っていた俺の姿を見て、急いでマスクをして、俺の前に座った。 (上着もネクタイも、マスクもいらんかった) 堅苦しい恰好をして臨んだことに少し後悔した。 別に上着を着ていたから、ネクタイをしているから減点になるわけではない。 逆にノーネクタイで来て、年配の社長がネクタイをしていたら、それは減点だろう。 それでも後悔したのは、何かこの古い業界に染まっていた自分が恥ずかしかったからである。 若い社長が、新しい時代を象徴していたわけでもない。 自分自身が業界の新しい時代を代表していきたいと思っていたのに、 (なんてダサいんだ…) 部屋の外から見ていた、もうひとりの自分が頭を抱えていた。 俺、いつの間にか業界に染まってるよ。 かっこ悪いよ。 とにかくタクシー運転手って、かっこ悪いんだよ。 昔から抱いていたタクシー運転手像、今自分がそこに重なってしまっているのか。 いや、そんなことはない。 俺は新しい時代の先頭を行くんだ。 すぐにネクタイを外したかった。 しかし、面接の途中でネクタイを外すことなど出来るはずもなく、 「みんな(年収)500~600万は持って帰ってますよ」 目の前で社長が笑顔で話していた。 自分が何を話したのか、あまり覚えていない。 渡された資料には、歩率59%ほどの表が示されていた。 月間売上72万なら、月給約36万、賞与に6万程度まわる。 確かに、年収500万にはなりそうだ。 そんなことを考えていた。 大事なことを確認していなかった。 ①交通費が出るのか(出なかった) ②クレジットの手数料負担があるのか(めちゃめちゃあった) そして、最も大事なこと ③事故をしたときのドライバー負担があるのか こういったことは面接の後でも確認出来ないこともない。 しかし、こういう聞きにくいことは、後からは聞きにくい。 聞きくいことは面接で確...